「これで外注に出さなくていい」はずだった
※本記事に登場する事例は、守秘義務の観点から大幅にフィクション化したモデルケースです。
横中ぐり盤が工場の左側に据えられ、門型マシニングセンタが中央を占める。五面加工機が奥に並び、天井クレーンが工場全体をカバーしている。
この工場は、産業機械向けの大型部品加工を手がけてきた。
ほとんどの工程は内製化できている。ただ、大径リングやケーシングだけは外注に出していた。納期調整が難しく、粗利も薄い。
「これを内製化できれば、利益構造が変わる」
そう判断して、立旋盤を導入した。
最後のピースが揃った。
これで一貫加工体制が完成する。外注に出さなくていい。リードタイムも短縮できる。
当時の経営会議では、誰もが前向きだった。
ところが、数年後。
立旋盤の稼働率は、想定を大きく下回っていた。
設備は問題なく動く。精度も出る。でも、回らない。
経営会議で、専務がこう切り出した。
「立旋盤、整理することも視野に入れたほうがいいかもしれない」
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このタイプの工場で立旋盤が担ってきた役割
立旋盤を導入した目的は、明確でした。
外注していた大径リングやケーシングを内製化する。
これにより、以下のメリットが期待されていました。
・リードタイム短縮(外注先の納期待ちが不要)
・粗利改善(外注費が社内加工費に変わる)
・技術アピール(一貫加工体制として営業提案できる)
計画としては、合理的でした。
ただし、立旋盤には特有の性質があります。
常時フル稼働しづらい設備だということです。
大径ワークは案件ごとに発生するため、毎日連続で加工するわけではありません。むしろ、スポット的に入ってくる性質の仕事です。
当初の計画では、「月に数回でも内製化できれば元が取れる」という試算でした。
でも、実際には違いました。
判断すべきは、内製化が目的だったのか、それとも利益体質改善が目的だったのかという点です。
この区別が曖昧だと、設備導入の成否判断も曖昧になります。
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なぜ計画通りに回らなかったのか
受注量の読み違い
最も多いのは、受注量の見込み違いです。
「年間これくらいは来るだろう」という試算が、実際には半分以下だった。
最近では、大型案件は波が大きいという見方もあります。
発注側の設備投資予算に左右されるため、年度によって案件数が大きく変動することもあるという声があります。
立旋盤を導入した年は、たまたま案件が多かった。
でも、翌年以降は想定より少なかった。
こうしたケースは、珍しくありません。
サイズばらつきと段取り替え
もう一つの問題は、ワークサイズのばらつきです。
同じ「大径リング」でも、直径1.5メートルから3メートルまで幅がある。
段取り替えのたびに、治具を変え、芯出しをやり直し、試削を行う。
これに半日以上かかることもあります。
結果として、加工時間よりも段取り時間のほうが長いという状況が発生します。
「稼働している」と言っても、実際には段取りで占有されているだけ。
収益性は上がりません。
外注を完全に止められない理由
さらに厄介なのは、外注を完全にゼロにできないという現実です。
納期が重なったとき、立旋盤だけでは処理しきれません。
結局、外注先との関係は維持しなければならない。
すると、「内製化したのに外注費も残る」という中途半端な状態になります。
正直に言うと、単体設備の能力と、ライン全体の収益性は別物です。
立旋盤単体では計画通りでも、工場全体で見ると最適ではなかった。
そういうケースは、意外と多いのです。
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売却を考えるとき、多くの工場が迷う理由
「せっかく入れたのに」
「投資額も大きかった」
「今さら手放すのは、失敗を認めることになる」
この心理は、理解できます。
でも、実務では感情と数字を分けなければなりません。
判断すべきは、以下の3点です。
・今後3年間の受注見通しはどうか
・外注単価と社内加工費のどちらが合理的か
・固定費(減価償却・電力・メンテ・床面積)をどう評価するか
ここを冷静に整理すると、答えは出ます。
たとえば、こんな状況になっていないでしょうか。
・立旋盤を置くために床面積を占有している
・その分、他の設備が入れられない
・電力容量に余裕がなくなっている
・メンテナンス費用が毎年発生している
これらは、目に見えにくいコストです。
「減価償却が終わったから、もうタダみたいなもの」
そう思いがちですが、実際には固定費負担は続いています。
売却を検討する理由は、「使えないから」ではありません。
**「他の投資にリソースを振り向けたほうが合理的だから」**です。
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【注意】大型機械特有の現実
立旋盤を売却しようとして初めて、「こんなに手間がかかるのか」と驚く経営者は少なくありません。
まず、テーブル分解が必要です。
主軸、テーブル、フレームを個別に搬出しなければなりません。
次に、基礎ボルトの撤去。
コンクリート基礎に埋め込まれているアンカーボルトを抜き、場合によっては床を斫ります。
撤去後は、床を補修しないと次の設備を据え付けられません。
ここまでの費用は、数百万円規模になることもあります。
さらに、買い手側にも負担があります。
・再設置工事費
・輸送リスク(分解・組立の精度低下)
・海外輸出の場合の規制や関税
これらを考慮すると、中古市場での価格は構造的に伸びにくくなります。
「安く見られている」のではなく、搬送・再設置コストが価格に織り込まれているのです。
大型中古機は、国内よりも海外需要があるという声もあります。
ただし、輸送リスクや再設置の難易度を踏まえた価格構造であることは、理解しておいたほうがいいでしょう。
価格だけで判断せず、撤去後の工場レイアウトをどうするかで考える。
それが、売却を検討するときの正しいスタンスです。
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【事例】内製化から”選択集中”へ修正した決断
※守秘義務のため大幅にフィクション
中部地方のある産業機械部品メーカーは、門型マシニング、横中ぐり盤、五面加工機を完備した工場でした。
大型案件の一貫加工を目指し、立旋盤を追加導入しました。
導入当初は順調でした。
大径リングやケーシングを内製化でき、取引先からも「一貫対応できる工場」として評価されました。
ところが、2年目以降、立旋盤の稼働が減り始めました。
大型案件は年に数件しか来ない。稼働は月に数日程度。
一方で、中小径の複雑形状部品の引き合いが増えていました。
経営会議で議論した結果、立旋盤を整理することを決断しました。
社内からは反対意見もありました。
「せっかく一貫体制にしたのに」
「大型案件を諦めるのか」
でも、最終的には以下の理由で売却を決めました。
・大型案件は外注先に任せたほうが、納期・コスト面で合理的
・得意分野(中小径複雑形状)に集中したほうが利益率が高い
・固定費を削減し、他の設備投資に回す
売却後、想定外の効果もありました。
・外注先との関係が安定し、むしろ協力体制が強化された
・得意分野に集中したことで、新規取引先が増えた
・固定費削減により、利益率が改善した
結論として、整理は撤退ではなく、戦略修正でした。
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まとめ:設備は”意地”で持つものではない
立旋盤を導入したとき、その判断は合理的だったはずです。
内製化によるリードタイム短縮、粗利改善、技術アピール。
どれも理にかなっていました。
でも、環境は変わります。
受注構造が変わり、案件の波が変わり、工場の戦略も変わる。
そのとき、問うべきは以下の問いです。
「一貫加工が目的だったのか、利益体質改善が目的だったのか」
もし目的が利益体質改善だったなら、今の立旋盤がその目的に貢献しているかを見直すべきです。
設備は、意地で持つものではありません。
「せっかく入れた」という感情ではなく、「今後3年の事業計画に合っているか」という数字で判断する。
それが、経営者としての正しい姿勢だと思います。
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