
塗装設備の売却を検討中の経営者さまへ
塗装設備は、工場の中でも固定費・人件費・保守コスト・環境対応が最も重くのしかかる領域のひとつです。 一方で、外注塗装の品質が大幅に向上し、自社でラインを維持するかどうかは、経営判断として再検討される機会も増えています。
本記事では、塗装ラインを自社で持ち続けるべきか、それとも売却・縮小・再編するべきかという視点で、経営者が判断するための材料を整理しています。 中古業者向けの専門的な評価論ではなく、あくまでも工場経営の意思決定に必要な視点に絞っています。
1.塗装ラインを「維持するコスト」を把握
塗装設備を所有する企業の多くが、次のような“見えにくい固定費”を抱えています。
- 乾燥炉・VOC装置の年次点検・法令対応費用
- 塗装ブースのフィルタ・消耗部品の定期交換コスト
- 安全管理者・特定化学物質管理など人的リソース
- 大型設備ゆえの電気代・ガス代(特に乾燥炉の起動コスト)
- 省エネ設備への更新投資の必要性(バーナ更新・制御盤改造)
稼働率が落ちた塗装ラインほど、これらの固定費が利益を圧迫します。 特に乾燥炉は稼働させなくてもコストが発生する設備であり、負荷率が40〜50%を切ると、自社で抱える合理性は徐々に薄れていきます。
2.業種別:塗装ラインの売却ケース
売却を前提とした内容ではなく、経営者が「持ち続ける価値」を再考できるよう、業種別の視点をまとめます。
2-1.自動車部品・建機部品メーカー
EV化・構造部品の軽量化・海外移管により、塗装量が不安定化している分野です。 特に大型乾燥炉を持つ企業では、生産変動に設備がついてこないという課題が多く見られます。
経営者が検討すべき論点:
- OEMの需要変動に対してライン能力が過剰化していないか
- 外注塗装との品質差が今も経営上の強みと言えるか
- 塗装工程を内製することで得られる付加価値は何か
2-2.住宅建材・アルミサッシ・スチール家具メーカー
この分野は建設需要の波を受けやすく、案件が減るとラインが一気に余ります。 また粉体塗装ラインは環境規制の強化により、VOC装置の維持コストが上昇傾向にあります。
経営者が検討すべき論点:
- 完全自動ラインが生産量に対して過剰ではないか
- 長尺物・多品種少量に向けたライン改造に追加投資する価値があるか
- 委託塗装先の品質・納期が安定してきていないか
2-3.精密板金・産業機械カバー・制御盤メーカー
バッチ式小型乾燥炉とブースを持つ企業は、負荷率が極端に下がりやすい特徴があります。 板金加工・組立の仕事が増えると、塗装は外注に切り替えても品質が安定しやすいため、ラインを持つ必然性が年々低下しています。
経営者が検討すべき論点:
- 繁忙期にだけ使う設備になっていないか
- 塗装人材の確保が難化していないか
- 自社ブランド上、塗装工程を外に出すことが問題になるか
3.売れる設備、売れない設備の境界線
売却前提の話ではなく、経営者が保有資産の価値を客観的に把握するために、中古市場の傾向を知ることは重要です。
3-1.海外で需要が続く塗装設備
東南アジア・インド・メキシコなどでは、以下のメーカーは特に人気が高く、中古でも値段が付きやすい領域です。
- 旭サナック(ASAHI SUNAC)
代表例:ガス熱風乾燥炉、粉体塗装ブース「SANPERM」シリーズ、静電粉体ガン「SAMES 北日本電線系」 - 大気社(TAIKI)
代表例:連続式ガス熱風乾燥炉、電着塗装ライン、自動車向けカチオン電着設備 - タクボエンジニアリング(TAKUBO)
代表例:粉体塗装ブース「TKSシリーズ」/高速色替え対応ブース/ガス熱風乾燥炉 - 神鋼環境ソリューション(旧シンコー)
代表例:VOC処理装置(触媒燃焼・直燃式) - オリオン機械(ORION)
代表例:熱風循環式乾燥炉、小型バッチ炉、産業用チラー - 日本パーカライジング(NIHON PARKERIZING)関連の前処理ライン
代表例:リン酸亜鉛処理ライン、脱脂・水洗ユニット(海外で前処理単体需要が高い)
これらのメーカーは、耐久性・メンテ性・故障率の低さを理由に海外需要が高く、 日本で役目を終えたあとでも「第二の人生」が生まれやすい設備です。 特に ASEAN 諸国では EU 規格よりも“シンプルで壊れにくい旧型機”が好まれる傾向が強く、
2010年前後の旧モデルでも買い手が付きやすいという特徴があります。
3-2.中古市場で動きが鈍い設備
一方で、次のような設備は中古市場で価値がつきにくく、売却より“撤去・スクラップ判断”に近くなることが多い分野です。
- 前処理ラインと完全一体化した装置
例:巨大なリン酸亜鉛処理+多段水洗+乾燥工程が一体化したタイプ。 - 特殊ワーク専用に改造された乾燥炉
例:自動車バンパー専用治具や、特定寸法しか通せない炉幅・炉高。 - 搬送ピッチが特殊なライン
例:チェーンコンベア間隔が150mm・200mmなど、一般流通サイズと合わない仕様。 - 基礎(ピット)と一体化した設備
例:炉の一部が地中構造と一体化しており、撤去費用が高額。 - 環境規制の影響で国内再利用が難しい旧式VOC装置
例:旧式触媒ユニット/NOx対策が不十分な直燃式。
売れやすさ・売れにくさを知る目的は、今すぐ売却するためではありません。 「保有し続ける合理性があるかどうか」を判断するための基礎データとして活用することができます。
4.塗装ラインを残すべきか、縮小か、撤去か
4-1.ライン稼働率が50%以下のまま数年続いている
この状態は、固定費過多・設備投資回収の遅延を示します。 外注塗装が安定しているなら、自社ラインを縮小または一部売却する選択肢が現実的です。
4-2.VOC・省エネ・防災などの環境投資額が増えている
塗装設備は環境規制の影響を強く受けるため、更新投資の負担が将来的にさらに増える可能性があります。
4-3.塗装工程を“競争優位”として語れなくなってきている
差別化ポイントが薄れた場合、ライン維持の必然性が低下します。 特に機械加工・組立の案件が伸び、塗装がボトルネック化している企業は注意が必要です。
5.塗装設備の「再配置・縮小・部分撤去」
塗装ラインは一式売却だけが答えではなく、次のような再編も可能です。
- 乾燥炉だけ撤去し、ブースだけ残す(小ロット内製に特化)
- 熱風発生装置のみ更新し既存炉を延命
- 粉体ラインを
・外注に完全移行する代わりに、サブラインを残す - ライン一式のレイアウト変更で、占有面積を削減
経営者として重要なのは、「塗装を内製する理由」を再定義することです。 理由が弱ければ、縮小や撤去は明確な選択肢になります。
6.最後に:塗装ラインは定期的に見直そう
塗装設備は、工場の中でも最も判断が難しい固定資産です。 なぜなら、
- 維持コストが高い
- 人材依存度が高い
- 環境規制が厳しい
- 生産量の波に弱い
だからこそ、経営層が主導して「持ち続ける意味」を定期的に点検することが重要です。
もし今、次のような状況があれば、見直しの良いタイミングです。
- 稼働率が低いまま固定費だけが増えている
- 環境対応投資が重荷になっている
- 外注塗装の品質・納期が安定している
- 新規事業・設備更新のためにスペースを確保したい
塗装ラインの価値をどう活かすかは、単なる設備判断ではなく、事業戦略そのものです。 「残すべきか」「縮小すべきか」「完全撤去すべきか」を考える際、この記事が判断材料となれば幸いです。