
熱処理炉の売却を検討中の経営者さまへ
工場閉鎖、設備更新、事業再編、海外移転——。こうした経営判断の節目で必ず直面するのが、真空熱処理炉・ガス炉・オーステンパー炉などの重設備をどう扱うか、という問題ではないでしょうか。
「この設備は、いくらで売れるのだろう?」
「古いけれど、海外なら需要があるのでは?」
「搬出が難しすぎて、結局スクラップなのでは?」
「付帯設備が不足していても買い手は付くのか?」
熱処理炉の売却に関する疑問は、どれも簡単には答えが出ないものです。なぜなら、熱処理炉は“扱いづらいが、高く売れる可能性がある機械”だからです。
このガイドでは、経営者・工場責任者の方が意思決定しやすいよう、熱処理炉の中古市場での動き、種類別の評価ポイント、海外需要、売却時の注意点、業種別の典型的シナリオまで深掘りしてまとめています。初心者向けの説明は不要だと思いますので実務的・経営判断的な視点に寄せています。
1. なぜ今、熱処理炉の中古市場が活発なのか?
「もう日本では需要がないのでは?」と思われがちな熱処理炉。しかし、実際には海外を中心に中古市場が非常に熱い状態が続いています。
その背景には次の3つの構造変化があります。
1-1. 国内の熱処理工程縮小が進んでいる
- EV 化の加速によりエンジン部品の需要が減少
- 熱処理工程を外注化する企業が増加
- 人件費・電力コスト上昇で自社炉を維持しづらい
これにより、国内では遊休化する炉が増えてきています。
1-2. 海外では熱処理炉の供給が不足している
特に次の地域では「今すぐ欲しい」という企業が多数存在します。
- インド(自動車・トラクター・農機部品)
- タイ(自動車・二輪部品)
- マレーシア・インドネシア(鋳造・鍛造ライン)
- ベトナム(外資系工場の増設ラッシュ)
- 中東・東欧(部品産業立ち上げ期)
真空炉・浸炭炉・連続炉は常に不足しており、中古市場への依存度が高いのです。
1-3. 新品価格の高騰
熱処理炉は設備投資額が非常に大きく、海外の中小企業にとって新品導入はハードルが高い状態が続いています。
そのため、信頼あるメーカーの中古炉は状態が多少悪くても歓迎される傾向があります。
特に人気のメーカー:
- 光洋サーモシステム
- IHI
- 富士電炉工業
- 中外炉工業
- 大槇鉄工
- 海外製:Ipsen / ALD / ECM
日本製の炉は世界での信頼性が高く、「日本製」というだけで査定が変わるケースも珍しくありません。
2. 熱処理炉の買取評価ポイント
「うちの炉はいくらになるのか?」という問いに答えるには、種類別・構造別に評価ポイントを押さえておく必要があります。
2-1. 真空熱処理炉(Vacuum Furnace)
中古市場で最も需要が強く、高額になりやすいのが真空炉です。
● 高評価につながる仕様
- 有効寸法が大きい(特に高さ)
- 最大温度が 1050℃〜1250℃
- 高真空が維持できる構造(10⁻¹〜10⁻² Pa)
- グラファイトヒーター or Mo(モリブデン)ヒーター
- 真空ポンプ構成が標準的で整っている
- チャンバーの腐食・クラックが少ない
- 制御盤が更新されている or 比較的状態が良好
● 逆に評価を下げやすい要素
- 熱電対・ヒーターの劣化
- 真空ポンプの故障
- 水冷設備の腐食
- チャンバー内の煤・剥離
ただし……海外バイヤーは「オーバーホール前提」で買うため、動作不良があっても売れるケースが多いです。
「動かないから無理だろう」と思われがちですが、真空炉は動かなくても売れる機械です。
2-2. ガス炉(雰囲気炉・浸炭炉・連続炉)
ガス炉は、自動車部品のギヤ・シャフト・ピニオンなどを扱う工場で多く使われる設備です。
● 評価ポイント
- 炉形式:ベルト炉・ローラーハース炉・バッチ炉
- 処理能力:kg/h が明確
- 雰囲気方式:エンドガス・RXガス・窒素+メタノール
- 焼入油槽(クエンチタンク)の有無
- 冷却ゾーン・洗浄装置の状態
- テンパー炉が揃っているか(重要)
- 制御盤やカーボンコントローラ
- ライン構成(焼入→洗浄→テンパー)
● ガス炉の最大の強み
海外では、炉単体よりもライン一式の方が高く売れます。
- 焼入炉
- 洗浄装置
- テンパー炉
- 冷却設備
これらが揃っているラインは、アジアで非常に人気があります。
「古いからスクラップだろう」と思っている設備ほど、海外で高く評価される場合があります。
2-3. オーステンパー炉
希少で特殊な設備のため、流通量は少ないものの、ハマれば高額になるカテゴリーです。
● こんな場合は売れる
- 大型ワーク対応(建機・農機部品など)
- 均熱性が高い
- 塩浴式の大型設備
- 温度制御精度が高い
- 付帯設備が揃っている
● よくある悩み
「塩浴だから管理が大変で、売れないのでは?」
→実は、東南アジア・インドでは今も需要があります。
国内での管理が難しい設備ほど、海外市場が活用される傾向があります。
3. 業種別|熱処理炉の買取事例
3-1. 自動車部品メーカー
EV 化による構造変化で、熱処理ラインが余剰となるケースが全国で増えています。
典型的な整理対象
- 連続炉ライン(ベルト炉、ローラーハース炉)
- 真空熱処理炉(中型〜大型)
- テンパー炉
- 洗浄・冷却・油槽設備
こんな状況が増えています
- 稼働率の低下
- メンテナンスコストが高い
- 外注化の検討
- 建屋整理のためラインを縮小したい
こうした設備は海外で非常に人気があります。
3-2. 熱処理専門工場
国内では人材不足、電力コスト上昇により、老朽設備を整理する動きが強まっています。
- 稼働率の低い炉を止める
- 新しい炉に入れ替えるため旧炉を売却
- 事業縮小のため設備を減らしたい
真空炉やガス炉は海外向けの需要が強く、状態が良ければ高額売却が見込めます。
3-3. 金型工場・精密加工工場
外注熱処理の品質が安定している地域が増え、自社炉を手放すケースが増加。
売れやすい設備
- 小型〜中型真空炉
- 焼戻炉
- 小型ガス炉(雰囲気炉)
中型真空炉は海外の金型工場で非常に需要が強く、探している企業も多いカテゴリーです。
「うちの炉は古い」と思われがちですが、海外では“中古=導入の近道”として歓迎されます。
4. 熱処理炉の買取で問題になる点は?
4-1. 搬出が難しい(最大のハードル)
- 重量:20〜50トン以上
- 出口幅が狭い工場
- 天井クレーンが無い
- ピット埋設タイプ
- トレーラーが近づけない立地
搬出難易度が高いと、撤去費が高額になり、売却額が目減りするケースがあります。
4-2. メーカーの輸出制限
- ヒーター材が規制対象
- 制御装置に該当技術あり
- 特定国への輸出制限
輸出が難しい炉は海外向け価格になりにくいため、事前確認が重要です。
4-3. 付帯設備の欠品
- 真空ポンプ
- ガス発生装置
- 油槽
- 冷却装置
- 温度記録計
ただし海外では「現地調達前提」で買われることが多いため、欠品があっても売れる可能性があります。
5. 熱処理炉売却のために必ず準備しておきたい資料
次の情報が揃っているだけで、査定額が大幅に変わることがあります。
必須資料
- 銘板写真(型式・製造番号)
- 仕様書・カタログ・図面
- 真空ポンプ・ガス発生装置の仕様
- メンテナンス履歴(ヒーター交換、ポンプOHなど)
- 炉内部の写真(チャンバー、ヒーター、断熱材)
- 搬出口寸法・レイアウト図
あると査定が上がる資料
- 過去の温度分布データ
- 修理・改造履歴
- 水冷設備の情報
- 電気容量(kVA)
資料が不足していると、買い手がリスクを見込んで価格を下げるため、準備が非常に重要です。
6. 買取価格の傾向
厳密な価格は設備によって異なるものの、海外人気が高いカテゴリーほど高額になりやすい傾向があります。
高額になりやすい設備
- 真空熱処理炉(中型~大型)
- 連続炉ライン
- オーステンパー炉(大型)
- 光洋サーモシステム・Ipsen などの有名メーカー
中価格帯になりやすい設備
- 小型真空炉
- 小型ガス炉
- 焼戻炉
低価格になりやすい設備
- 搬出が困難な炉
- チャンバーの損傷が大きい炉
- 付帯設備が大きく欠品
ただし、「低価格になりやすい」とされる設備でも、海外向けなら売れることがあります。
7. 熱処理炉の処分にお困りならご相談下さい
国内の製造業が変化し、熱処理設備を手放す工場が増えています。しかし、海外では依然として熱処理炉の導入需要が高く、「もう価値がない」と思われがちな設備でも売れるケースが非常に多いのが実情です。
もし今、次のような疑問をお持ちなら……
- 「うちの炉はいくらくらいになるのか?」
- 「海外で売れるタイプなのか?」
- 「搬出は可能なのか?」
- 「付帯設備が足りなくても対応できるのか?」
まずは現状整理から始めてみてください。重設備である熱処理炉は、正しいルートに乗せるだけで大きな資産に変わります。
本ガイドが、貴社の設備整理・事業戦略の一助となれば幸いです。