EV減速機向け量産ラインを見直した岐阜県K社の例
導入した設備が、想定通りに動き続けるとは限りません。
マザック HCN-5000を導入したものの、
「思ったほど稼働していない」
「受注が減ってラインが空いている」
「売却するべきか、それとも次の案件を待つべきか」
そんな悩みを抱えている企業も少なくありません。
特に近年はEV市場の変化が激しく、数年前には有望視されていた案件でも、状況が大きく変わるケースが増えています。
今回は、EV減速機ケース向け量産ラインとしてHCN-5000を3台導入したものの、計画変更によって設備の稼働率が大幅に低下した岐阜県の自動車部品メーカーK社の事例を紹介します。
【注記】
本記事の事例は、お客様の守秘義務保護のため、複数事例をもとに構成・脚色しています。実際の企業名・人物名・設備構成とは異なりますが、製造業で実際に起こり得る意思決定プロセスを再現しています。
なぜHCN-5000を導入し失敗したのか?
岐阜県に本社工場を持つK社。
従業員数は約85名。
主力事業は自動車向けアルミ部品加工でした。
主要顧客は複数のTier1メーカーで、エンジン部品やトランスミッション部品を長年供給していました。
しかしガソリン車向け案件の将来性に不安を感じ始めたのが2021年頃です。
取引先から、
「EV減速機ケースの量産案件がある」
という相談が持ち込まれました。
年間5万個。
契約期間は5年以上を想定。
さらに将来的には倍増の可能性も示唆されていました。
経営陣は、
「今後の主力事業になる」
と判断します。
導入したのがマザック HCN-5000を3台。
パレットシステムも増設し、夜間無人運転を前提とした量産ラインを構築しました。
総投資額は周辺設備を含め約3億5,000万円。
銀行借入と補助金を組み合わせた大型投資でした。
当時は社内でも、
「EV案件に乗り遅れるわけにはいかない」
という空気が強かったといいます。
HCN-5000への期待と現実のギャップ
導入当初の計画では、
3台の横型マシニング マザックHCN-5000をほぼフル稼働させる予定でした。
昼夜2直体制。
年間稼働率は80%以上を想定。
減速機ケース加工専用ラインとして運用されていました。
しかし状況は急変します。
量産開始から約1年後。
完成車メーカーがEV販売計画を下方修正しました。
世界的なEV需要の伸びが想定を下回ったためです。
その影響はTier1メーカーにも波及しました。
K社への発注量は徐々に減少。
年間5万個の計画は、
2万個台まで縮小します。
ライン全体の稼働率は80%超から40%以下へ低下。
本来であれば3台体制で回す予定だった設備は、実質的に1~2台で十分な状態になりました。
売却判断を難しくした理由
EV市場は本当に戻るのか
設備が空き始めた頃、
工場長は売却を提案しました。
しかし経営陣は即断できませんでした。
理由は単純です。
「来年にはまた増産するかもしれない」
という期待があったからです。
実際、取引先も案件終了とは言いません。
あくまで減産。
そのため判断が先送りされました。
減価償却がまだ残っていた
導入からわずか数年。
帳簿上の残存価値も大きく残っています。
売却すると会計上の損失が発生する可能性がありました。
経理部門は慎重姿勢でした。
設備を持ち続ければ帳簿上は維持できる。
しかし使わなくても固定費は発生します。
経営会議では何度も議論になりました。
銀行への説明
借入を活用した設備投資だったため、
金融機関への説明も必要でした。
設備を売却することは、
当初計画の修正を意味します。
銀行担当者からも、
「今後の受注見通しをどう考えているのか」
と確認される状況でした。
電気代と保守費
稼働率が下がってもコストは消えません。
定期点検。
保守契約。
油脂類管理。
空調負荷。
設備を維持するための費用は継続します。
特に大型横形マシニングセンタは設置スペースも大きく、
工場レイアウトを固定化する要因にもなります。
他案件への転用が難しかった
減速機ケース専用ラインとして構築していたため、
治具や工程設計も専用化されていました。
他案件へ流用するには追加投資が必要です。
営業部門は新規案件獲得を模索しましたが、
すぐに設備を埋める仕事は見つかりませんでした。
一度、設備の価値を把握してみるという選択肢
設備を残すか。
活用先を探すか。
更新計画を見直すか。
その判断をする前に、
現在の市場価値を把握しておく企業が増えています。
帳簿価格と実際の市場価格は一致しないことも多く、
想定以上の評価が付くケースもあります。
設備をどうするか決めていなくても、現状把握のために確認しておくことは有効です。
相談窓口はこちらです。
なぜ今、見直しを決断したのか
転機になったのは人材問題でした。
当初はEV案件拡大を見込み、
若手オペレーターの育成も進めていました。
しかし案件減少によって担当者の配置転換が必要になります。
他ラインも人手不足。
遊休設備のために人材を固定する余裕はありませんでした。
さらに数年後にはメーカーサポート体制の変化やNC装置更新リスクも見えてきます。
「いつか使うかもしれない」
だけで保有し続けることへの疑問が強まりました。
経営陣は改めて設備戦略を見直します。
そして、
設備保有そのものではなく、
工場全体の収益性を優先する方針へ転換しました。
結果として一部設備を整理し、
空いたスペースを新規案件向け工程へ再配置する判断を行いました。
この事例から学べること
EV案件だから安心とは限らない
当時の判断自体は合理的でした。
需要予測も業界全体が共有していたものです。
しかし市場環境は変化します。
問題は投資判断ではなく、
変化後の対応です。
稼働率低下を放置しない
設備は稼働して初めて利益を生みます。
稼働率40%の状態が続くと、
利益率だけでなく人員配置や工場スペースにも影響します。
感情と数字を分けて考える
高額設備ほど、
「もったいない」
という感情が生まれます。
しかし経営判断では、
将来利益と維持コストを比較しなければなりません。
売却か保有かの二択ではない
転用。
工程再編。
他工場移設。
M&A後の統合活用。
選択肢は複数あります。
そのためにも現状把握が欠かせません。
まとめ
横型マシニング マザック HCN-5000を3台導入したK社の事例は、設備投資そのものの失敗を示す話ではありません。
当時の情報から見れば、EV減速機向け量産ラインへの投資は十分に合理的でした。
しかし市場環境は変わります。
受注量も変わります。
計画通りに進まないことは珍しくありません。
設備投資後に本当に問われるのは、
導入時の判断ではなく、
状況変化に対してどのような意思決定を行うかです。
設備を保有し続けるのか。
転用するのか。
整理するのか。
重要なのは、判断を放置しないことです。
設備整理を急ぐ必要はありません。しかし現状把握は早い方が有利です
設備を残すべきかどうかは、設備の価値、今後の受注見込み、工場全体の収益構造を見ながら判断するものです。まずは現在の資産価値を把握し、そのうえで活用・転用・整理を含めた選択肢を比較することが重要です。判断材料を持つことで、将来の意思決定がしやすくなります。
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