SE100EV(クリーンルーム仕様)を導入したがショット数わずか数千で眠り続けた成形機
「補助金を活用して新市場へ参入したものの、思うように案件が取れない」
「設備自体はほとんど使っていないが、売却していいのか判断できない」
そんな状況はありませんか。
設備投資が失敗だったのかどうかは、導入直後には分かりません。
特に事業再構築補助金や各種支援制度を活用した設備投資では、「もう少し続ければ成果が出るかもしれない」という期待が判断を難しくします。
今回は、愛知県のプラスチック成形メーカーが、住友重機械工業のSE100EV(クリーンルーム仕様)を導入し、医療分野への参入を目指したものの、最終的に設備の整理を決断した事例をご紹介します。
主役は成形機ではありません。
市場変化に直面した経営者が、どのように考え、どのように方向転換したのかという意思決定の物語です。
【注記】
本記事の事例は、お客様の守秘義務保護のため、複数事例をもとに構成・脚色しています。実際の企業名・人物名・設備構成とは異なりますが、製造業で実際に起こり得る意思決定プロセスを再現しています。
なぜこの設備を導入したのか、そして失敗したのか?
EVシフトへの危機感から始まった大型投資
愛知県で自動車向け樹脂部品を製造するC社。
従業員数は48名。
主な取引先は自動車部品メーカーや一次サプライヤーでした。
2020年から2021年にかけて、自動車業界ではEV化の話題が急速に広がります。
ガソリン車向け部品の将来に不安を感じる企業も少なくありませんでした。
C社長もその一人でした。
当時の売上の約85%が内燃機関関連部品。
将来的にエンジン部品が減少すれば、自社の受注も大きく落ち込む可能性があると考えたのです。
社内会議ではこんな声もありました。
「今のうちに次の柱を作らないと危ない」
「自動車一本足ではリスクが大きい」
「補助金がある今しかない」
こうして事業再構築補助金を活用し、医療用プラスチック容器市場への参入計画が動き出しました。
総投資額は約8,000万円
設備投資の内容は決して小さくありませんでした。
導入したのは住友重機械工業のSE100EVクリーンルーム対応機。
さらに、
- クリーンルーム新設
- 空調設備
- 陽圧管理設備
- 品質管理機器
- 測定設備
- クリーンウェア運用体制
なども必要となりました。
設備投資総額は約8,000万円。
補助金で半額程度をカバーできたとはいえ、自社負担も大きく、金融機関からの借入も実施しています。
当時は、
「3年以内に医療向け売上1億円」
という事業計画を掲げていました。
住友 SE100EVへの期待と現実のギャップ
成形技術には自信があった
設備導入当初、現場に悲観論はありませんでした。
むしろ技術者たちは前向きでした。
成形品質には自信があり、
寸法精度
外観品質
バリ対策
工程管理
については既存顧客から高い評価を得ていたからです。
試作段階では医療向け容器のサンプルも良好な結果が出ました。
テスト成形も問題なく進みます。
「これなら案件は取れるだろう」
誰もがそう考えていました。
問題は設備ではなく販路だった
しかし現実は想像以上に厳しいものでした。
医療分野では、
- 品質実績
- 業界経験
- 認証体制
- トレーサビリティ
- 継続供給能力
が強く求められます。
自動車業界では実績豊富なC社も、医療業界から見れば新規参入企業です。
展示会にも出展しました。
商談会にも参加しました。
サンプル提出も繰り返しました。
しかし量産案件には結び付きません。
担当者からは、
「技術は問題ない」
「ただ実績がない」
という評価を何度も受けました。
技術力だけでは市場に入れなかったのです。
稼働率は10%にも届かなかった
設備導入後の状況は徐々に厳しくなります。
初年度は試作品やサンプル生産中心。
2年目も状況は変わりません。
3年目になっても量産案件はゼロ。
結果として、
- 稼働率は一桁台
- 生産時間は月数時間程度
- ショット数は数千回レベル
という状態でした。
クリーンルーム内は常に清潔。
設備状態も良好。
しかし利益は生み出していません。
まさに「使われていない高性能設備」になっていたのです。
売却判断を難しくした理由
「ここまで投資したのだから」という心理
設備整理を難しくした最大の要因は感情でした。
投資総額は約8,000万円。
補助金を活用していても、自社負担は大きい。
銀行との融資契約もあります。
何より社長自身が将来を考えて決断した設備投資でした。
そのため、
「もう少し続ければ案件が取れるかもしれない」
「展示会を増やせば変わるかもしれない」
という期待が消えません。
数字では整理した方がよいと分かっていても、感情が追いつかなかったのです。
減価償却と固定費の存在
設備は稼働しなくてもコストを生みます。
減価償却費。
クリーンルーム維持費。
空調費。
保守契約費。
定期点検費。
品質管理費。
特にクリーンルームは維持するだけでも費用が発生します。
稼働していない設備のために固定費が積み上がる状況は、経営的には見過ごせない問題でした。
銀行への説明も必要だった
金融機関との関係もあります。
大型設備投資を行った以上、
「なぜ撤退するのか」
を説明しなければなりません。
しかし業績自体は悪化していませんでした。
むしろ本業は回復傾向です。
そのため銀行担当者との面談では、
「失敗した設備を抱え続けるより、本業へ経営資源を集中する方が合理的ではないか」
という議論が行われるようになりました。
補助金の処分制限期間
もう一つ大きかったのが補助金でした。
補助金設備には一定期間の処分制限があります。
その期間中は簡単に売却できません。
C社も当初はこの制約がありました。
しかし2025年頃になると状況が変わります。
処分制限期間の終了が見えてきたのです。
経営判断の選択肢が初めて現実的になりました。
設備の価値は、稼働しているかどうかだけでは判断できません。
今使っていない設備でも、市場では高く評価されるケースがあります。
導入当時の価格や帳簿価格だけではなく、現在の中古市場でどの程度の価値があるのかを把握することで、経営判断の材料が増えます。
なぜ今、見直しを決断したのか
皮肉にも本業が忙しくなった
2024年以降、状況は予想外の方向へ進みました。
ガソリン車向け部品が急激に消えると思われていましたが、実際には需要が残り続けました。
さらにハイブリッド車向け部品の受注も増加。
主要顧客からの発注量は回復し、
工場全体の稼働率は高水準となります。
問題はスペースでした。
クリーンルームは工場内でも好立地。
物流動線にも近い場所にあります。
一方で、本業向けの組立工程は手狭になっていました。
現場責任者からは、
「このスペースがあればラインを拡張できる」
という声が出始めます。
利益率の比較で答えが見えた
社内では改めて数字を比較しました。
医療案件の見込み利益。
本業ライン増設時の利益。
人員配置。
設備利用率。
結果は明確でした。
医療参入継続よりも、本業拡張の方が利益率が高い。
しかも受注は既に存在しています。
将来の可能性より、現在の需要を取り込む方が経営として合理的でした。
社長が認めた現実
最終的にC社長はこう話したそうです。
「設備は悪くなかった」
「市場の選択が難しかった」
「医療参入を否定するつもりはない」
「ただ、うちが今やるべきことではなかった」
失敗を認めるというより、
会社の現状に合わせて優先順位を見直したという判断でした。
査定担当者が驚いた設備状態
売却検討時、査定担当者は設備を見て驚きました。
クリーンルーム管理下で保管。
稼働時間極少。
ショット数も少ない。
外観状態も良好。
保守履歴も明確。
中古市場では極めて希少なコンディションだったのです。
導入当時は成果を生まなかった設備でしたが、別の企業から見れば魅力的な経営資源でした。
住友 SE100EVの事例から学べること
設備投資が間違いだったとは限らない
この事例で注目すべきなのは、
設備そのものの性能ではありません。
SE100EVは期待された役割を果たせなかったわけではありません。
実際には十分な能力を持っていました。
問題は市場参入の難易度でした。
設備投資と市場開拓は別の課題です。
設備が優秀でも販路がなければ利益は生まれません。
補助金があるから成功するわけではない
補助金は投資リスクを下げます。
しかし市場リスクまで消してくれるわけではありません。
特に新分野進出では、
- 顧客開拓
- 実績構築
- 認証取得
- 人材育成
といった課題が残ります。
設備導入だけで事業転換が完了するわけではないのです。
判断を先送りしないことの重要性
最も大きな学びはここにあります。
設備投資後の見直しは失敗ではありません。
市場環境は変化します。
顧客も変化します。
事業環境も変わります。
その中で、
「今の会社にとって最適な資源配分は何か」
を定期的に考えることが重要です。
まとめ
住友 射出成形機 SE100EVを導入したC社は、EVシフトへの危機感から医療市場への参入を目指しました。
しかし医療業界特有の参入障壁は想像以上に高く、量産受注には至りませんでした。
一方で本業は回復し、工場スペースや人員配置の優先順位も変化しました。
結果として同社は、過去の投資判断の正否を問うのではなく、現在の経営環境に合わせて設備の役割を見直す決断を下しました。
設備投資で本当に難しいのは導入時ではありません。
導入後に状況が変わったとき、どう判断するかです。
放置された設備が問題なのではなく、判断が止まってしまうことの方が経営にとって大きなリスクになる場合があります。
現在使用頻度が低い設備や、当初計画と異なる使われ方をしている設備がある場合は、売却を前提に考える必要はありません。
まずは現在の資産価値を把握し、自社の事業計画や工場レイアウト、今後の投資計画と照らし合わせながら選択肢を整理することが大切です。
設備を残す、活用方法を変える、移設する、更新する、整理する。
どの選択肢が最適なのかは企業ごとに異なります。
その判断材料として、設備の市場価値を把握しておくことは有効です。
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