はじめに
「ウチの工場でもロボット向けの仕事ができるのか?」
最近、そんな相談を受けることが増えてきました。確かに、ロボット・自動化機器市場は急成長しており、それに伴う部品加工の需要も拡大しています。しかし、参入を検討しているものの、「何から始めればいいかわからない」「大手しかできないのでは?」と不安を感じている経営者も多いでしょう。
実は、受託加工業の強みを活かせば、この分野で十分に勝負できます。ポイントは、どこにチャンスがあるのかを理解し、計画的に進めること。市場の需要、求められる加工技術、適切な設備投資、そして取引先との関係構築が成功のカギを握ります。
本記事では、受託加工業がロボット・自動化機器の市場に進出するための5つのステップを詳しく解説します。
ステップ1:ロボット・自動化機器の部品需要を把握
ロボット向けの部品加工に挑戦すると決めたら、まず市場の需要を把握することが大切です。どんな部品が必要とされ、どのような特性が求められるのかを知ることで、自社の技術を活かせる分野を見極められます。
ロボット用部品の特徴と加工の難易度
ロボットや自動化機器に使われる部品は、一般的な金属加工品とは一線を画します。たとえば、ロボットアームに組み込まれる関節部品は、動作の正確性を保つために高い平行度や同心度が求められます。また、減速機部品のギアやベアリングホルダーは、極めて厳しい寸法公差のもとで製造される必要があります。
こうした部品は、
- 高剛性・高精度の要求:わずかな誤差がロボットの動作不良につながるため、加工精度が極めて重要です。
- 軽量化の必要性:高速動作が求められる部品では、アルミやチタンといった軽量金属の使用が増えています。
- 耐久性と表面処理:長期間の稼働に耐えうる摩耗対策として、特殊なコーティングや熱処理が不可欠です。
また、ロボット部品の多くはカスタム仕様であり、短納期・多品種少量生産が求められる傾向にあります。これは、柔軟な対応力を持つ中小企業にとっては大きなチャンスでもあります。

ステップ2:求められる加工技術と設備投資
ロボット向けの仕事をするには、それに対応できる技術力と設備が必要になります。ただ単に「鉄やアルミを削る」仕事ではなく、精密さと生産効率の両立が求められるためです。
高度な加工技術の必要性
ロボット用部品を製造するには、従来の3軸マシニングセンタやNC旋盤では限界があることが少なくありません。例えば、関節部品の複雑な形状や減速機の精密ギア加工には、以下のような技術が求められます。
- 同時5軸加工:複雑形状を高精度で加工するためには、ワンチャッキングで多方向から加工できる5軸マシニングセンタが不可欠です。特にロボットアームの関節部分やハウジング類では、複数回の段取り替えを減らすことで精度向上とコスト削減を両立できます。
- 複合加工:旋盤とマシニングセンタの機能を統合し、一体加工を可能にする複合加工機は、ギアやシャフトなどの部品を高精度かつ短時間で仕上げるのに適しています。
- 放電加工:電極を使って金属を除去する放電加工は、極めて精密な加工が必要な部品や、従来の切削では難しい形状の加工に活用されます。ロボットの精密部品には、微細放電加工が求められることもあります。
- レーザー加工とファイバーレーザー溶接:薄板部品の精密加工や、強度を維持したままの溶接には、最新のレーザー技術が必要になります。
設備投資のポイントとコスト対策
新しい技術を取り入れるには、それに対応した設備投資が不可欠です。ただし、ロボット用部品に特化した設備を導入するにはコストがかかるため、慎重な判断が求められます。
まず、最初から大規模な設備投資をするのではなく、既存の機械を活用しながら段階的に拡張する方法を検討するのが賢明です。たとえば、
- 既存のマシニングセンタに高精度な治具を追加し、加工精度を向上させる
- 後付けのロータリーテーブルを導入し、3軸機を擬似的に5軸化する
- 精密測定機器を導入し、品質管理を強化する
また、補助金や助成金を活用するのも一つの手です。「ものづくり補助金」や「事業再構築補助金」などを活用することで、設備投資の負担を大幅に軽減できます。
さらに、最近ではAIやIoTを活用したスマートファクトリー化も進んでおり、ロボット向け部品の加工にも大きな影響を与えています。例えば、
- AIを活用した加工条件の最適化
- IoTを活用した設備の稼働状況のリアルタイム監視
- 遠隔監視システムの導入によるダウンタイム削減
このような最新技術を導入することで、競争力を高めながら生産効率を向上させることができます。
ロボット・自動化機器向けの部品加工は、今後ますます需要が拡大する分野です。しかし、単に「参入すれば儲かる」というわけではなく、正しい知識と準備が不可欠です。次のステップでは、具体的な取引先との関係構築について詳しく解説していきます。

ステップ3:ロボットメーカー・SIer(システムインテグレーター)との接点を作る
ロボット部品の加工技術や設備を整えたとしても、肝心の仕事がなければ意味がありません。受託加工業がロボット・自動化分野に進出するためには、業界の主要プレイヤーとのつながりを作ることが不可欠です。その中でも特に重要なのが、ロボットメーカーやSIer(システムインテグレーター)との関係構築です。
ロボットメーカーとの取引を目指す
ロボットメーカーは、自社で開発したロボットの組み立てに必要な部品を、多くの外部企業から調達しています。彼らが求めるのは、単なる加工業者ではなく「信頼できるパートナー」です。そのためには、次のような取り組みが重要になります。
- 展示会に参加し、直接メーカーの担当者と話す 国際ロボット展(iREX)や産業交流展は、ロボットメーカーが多数出展し、商談の場としても活用されています。こうした展示会では、単なる名刺交換だけでなく、自社の技術力を具体的にアピールすることがポイントになります。
- 試作案件を積極的に受ける ロボットメーカーは、新型機種を開発する際に頻繁に試作を行います。この試作案件を受注することで、自社の加工技術を証明し、継続的な取引につなげることができます。
SIerとのネットワークを構築する
SIer(システムインテグレーター)は、ロボットや自動化システムの導入を支援する企業で、各種ロボットメーカーと密接に連携しています。彼らはクライアント企業のニーズに応じてロボットを組み合わせ、最適なシステムを構築するため、部品加工のパートナーを求めています。
- FA(ファクトリーオートメーション)企業との提携を検討する FA企業は、生産設備の自動化を推進するため、ロボット部品の調達にも関わることが多いです。彼らとの関係を築くことで、間接的にロボットメーカーとの取引が生まれることもあります。
こうしたつながりを構築することで、ロボット・自動化機器市場への参入がスムーズになります。
ステップ4:品質管理とトレーサビリティの強化
ロボット向け部品は、精密さだけでなく、一貫した品質管理が求められます。ロボットは長期間にわたり安定して動作することが求められるため、部品の品質管理が不十分だと、製品全体の信頼性を損なうことになりかねません。
高度な品質管理体制を整える
ロボットメーカーやSIerと取引を開始するためには、国際基準に準拠した品質管理が不可欠です。特に以下の基準や認証が重要となります。
- ISO 9001認証:品質管理システムの国際標準であり、ほとんどのロボットメーカーが取引の条件としています。
- PPAP(生産部品承認プロセス)対応:自動車業界で用いられる品質保証手法ですが、ロボット部品にも応用されつつあります。
また、耐久試験や動作検証を行い、長期間の使用に耐えうる品質を証明することも重要です。
トレーサビリティを確保する
ロボット部品では、製造履歴の追跡が求められることが増えています。そのためには、
- バーコードやQRコードを活用した製造履歴の管理
- 加工データや検査結果をデジタル化し、記録を残す
といった対応が必要になります。特に、海外のロボットメーカーと取引を行う場合は、トレーサビリティが必須要件となるケースが多いため、早めに体制を整えておくことが重要です。

ステップ5:試作品・小ロット生産から受注拡大へ
ロボット業界に参入する際、いきなり大規模な量産案件を狙うのではなく、まずは試作案件や小ロット生産から始めるのが現実的です。試作案件を通じて技術力を証明し、信頼を獲得することで、次のステップへ進むことができます。
試作案件を受注し、技術力を証明する
ロボットメーカーは新型モデルを開発する際、多くの試作品を作成します。この段階で部品供給に関われると、開発の最終段階で正式なサプライヤーとして認定される可能性が高くなります。
試作案件の特徴として、
- 高精度・高品質が求められる
- 納期が短いことが多い
- 頻繁な仕様変更に対応する柔軟性が必要
という点があります。このような案件を継続してこなすことで、ロボットメーカーからの信頼を獲得し、最終的には量産案件の受注につながります。
設備投資と補助金の活用
ロボット向け部品の加工には、高度な設備が必要になるケースもあります。しかし、新規設備導入には多額のコストがかかるため、以下のような支援制度を活用するのがおすすめです。
- ものづくり補助金:中小企業が新技術の導入を行う際の支援制度。
- 事業再構築補助金:新規事業への参入を支援する制度で、自動化分野への進出にも活用可能。
こうした制度を活用しながら、徐々に設備を強化し、大規模な案件にも対応できる体制を整えましょう。
まとめ
ロボット・自動化機器市場への参入は、大きな可能性がある一方で、「うちの工場で本当に対応できるのか?」「設備投資のリスクが高すぎるのでは?」といった疑問や懸念を持つ方も多いでしょう。
確かに、新しい分野へ挑戦するには適切な技術と設備が必要ですが、それは一度にすべてを揃えるという意味ではありません。まずは市場の需要を把握し、現在の設備で対応できる範囲を見極めた上で、必要な投資を段階的に進めることが重要です。
特に、既存の設備を見直すことは、最初の大きな一歩になります。例えば、現在お使いの工作機械(マシニングセンタやNC旋盤、プレス機、板金機械、射出成形機など)が、ロボット部品の加工に転用可能かを検討してみましょう。もし対応が難しい場合は、使われていない設備を売却し、新たな設備導入の資金に充てることも現実的な選択肢です。弊社の工作機械買取サービスを活用すれば、資金を確保しながら、より効率的な生産体制へとシフトできます。
- 市場の需要を把握し、強みを活かせる分野を選定する
- 既存の設備を見直し、必要な機械だけを新規導入する
- ロボットメーカーやSIerとのネットワークを構築する
- 品質管理とトレーサビリティの体制を整える
- 試作案件を積極的に受注し、実績を積み上げる
こうした段階的なアプローチを取ることで、無理なく自動化市場へ参入し、継続的な成長を実現できるでしょう。ロボット産業は今後ますます発展していく分野です。この機会を逃さず、貴社の強みを活かした新たな挑戦を始めてみませんか?